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臨床研究について

小児医療の進歩のため、当院では臨床研究を行っています。

※現在は患者様の待ち時間を減らすため中断しています。

   マクロライド耐性肺炎マイコプラズマの小児における臨床試験

​~小児のマイコプラズマ感染症における耐性菌の研究へのご協力のお願い~

​(肺炎マイコプラズマに対する抗生剤の効き方をDNAレベルで調べる研究)

 

​研究責任者 川崎医科大学小児科学

      尾内 一信

      大石 智洋

(1)研究の背景と目的

 マイコプラズマは主に小児の5歳以上の肺炎の原因になるとされています。この肺炎はしつこい咳と発熱を主な症状として発病しますが、マクロライドといわれる薬を服用することで、比較的容易に治療できる病気です。しかし、2000年頃からこの特効薬であるマクロライド系の薬(クラリスロマイシン、アジスロマイシンなど)が効きにくいマイコプラズマ肺炎が主に日本で報告されるようになっています。

 もし、これらの薬が効かなくなるとマイコプラズマ肺炎に効く薬を急いで開発しなくてはならなくなり、社会的にも大きな問題となります。

 現在のところ、アジスロマイシン(ジスロマック®)が効かない例にはミノサイクリン(ミノマイシン®)という薬を使っており、副作用もほとんどみられていません。しかし、長期間(1ヶ月以上※1)使用すると、歯が黄色くなったり、肝臓が悪くなったりすることがあります。※2

 このマクロライドが効かない(耐性)マイコプラズマ肺炎は大きな病院にかかった患者さんから分離されており、一般の診療所や病院の先生のところで診てもらっている患者さんの実態はほとんど分かっておりません。そこで、今度一般の診療所や病院の先生のところでこのような研究を始めることとなりました。

 以下の研究にご参加いただくとマイコプラズマをリアルタイムPCRという新しい方法で検査するため、その肺炎が本当にマイコプラズマであるか、また薬が効くものか効かないものかが分かります。ぜひご協力をお願いいたします。

※1 連続1ヶ月ではなく、ミノサイクリンを使用した期間の累計1ヶ月以上を意味します。この副作用は歯の成長期のお子さんにのみ生じるため、8歳未満のお子さんには使用しない方が望ましいとされています。しかし、7歳以上のお子さんに初めて使用されて色素沈着を生じたという報告は現在のところ1例もありません。

※2 現在ではマクロライド耐性肺炎マイコプラズマが疑われた場合、歯の成長期のお子さんにはトスフロキサシン(オゼックス®)というお薬を使うことができます。これには歯に色がつく副作用はなく、低年齢のお子さんにも安全に使用することができます。しかし、ごくまれにトスフロキサシンにも耐性と思われる場合があり、その時には低年齢のお子さんにもミノサイクリンを使用せざる得なくなることがあります。

(2)研究の方法

 研究の開始日に綿棒で鼻の奥をこする検査をします。※3

※3 当院ではのどの奥をこすり、咽頭ぬぐい液を採取します。

(3)研究によって生じる、または予想される問題

 綿棒で鼻の奥をこする検査や血液検査により、痛みや不快感を伴うことがあります。ただし、マイコプラズマ感染症の通常の診療でも同様の検査を行っています。

(4)個人情報(個人を特定できる情報)の保護

 患者さんからいただいた情報や検体(鼻汁)は個人が特定されないよう匿名化された形で川崎医科大学付属病院に送られ、外部に漏れないよう厳重に管理されます。ご両親及びお子さんの協力で得られた研究結果は指名、性別などの個人情報が明らかにならない形で学会発表や学術雑誌の発表に使用させていただきます。

(5)検査・薬剤等の費用負担

 鼻の奥をこするPCR検査は費用のご負担はありません。

(6)謝礼の有無

 研究にご参加いただくことに対する交通費や謝礼はありません。

(7)研究に参加することのメリット

 研究結果が直接治療の役に立ちます。また研究によりマイコプラズマ感染症の診断や治療が進歩することで、将来の患者さんにとっても役に立ちます。

(8)研究協力への不同意や同意撤回

 研究への参加は自由です。また、いつでも文書により同意が撤回できます。撤回された場合には採取した検体や検査結果は廃棄されますが、そのことによる不利益はありません。

(9)利益相反(利害関係が想定される企業等との関わり)

 PCR検査は川崎医科大学小児科学の研究費で実施されるため、利益相反は起こりません。

(10)検体の保存

 検査に使用した検体は、マイコプラズマ肺炎に関するより優れた診断法や治療薬の研究のために大切に保存させていただきます。同意をいただけない場合は、本研究終了後に検体を廃棄いたします。

当院での研究の流れ

​研究対象:生後1ヶ月から15歳未満でのマイコプラズマ感染症が疑われるお子さん

①マイコプラズマ迅速検査(症状の原因がマイコプラズマかどうかを調べるのどの検査)を行う際に、研究へご協力いただけるかどうかを確認し、上記の研究内容を説明、同意いただける場合は同意書にご署名ください。当院ではマイコプラズマ感染症が疑われ、かつマクロライド系の抗生剤(ジョサマイシシロップ®やジスロマック®など)が効かない時や、お子さんの状態が悪く病原体を特定したい時などに検査を行います。

迅速検査の結果自体は20分程度でお伝えできます。

②マイコプラズマ迅速検査を行う際に、同時に研究用の検体を採取します。同時に行いますので通常の検査に加えてさらにお子さんに負担がかかることはありません。

​③医院から検体を川崎医科大学小児科学講座へ送付します。特別なご要望がなければ、匿名化されている研究目的での検査結果は患者様に開示されることはありません。

​同意書を書いていただくというお手間を取らせますが、子どもたちのマイコプラズマ感染症の動向を明らかにするため、ぜひご協力ください。

​※説明の時間が取れないほど診療が立て込んでいる場合は、ご参加のお願いを見送ることがあります。

以下は作成中の小児疾患データベースより転載

肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae):

 人工培地に発育可能な自己増殖性微生物の中で最小の微生物である。一般の細菌とは異なり細胞壁を欠き3層の限界膜に包まれており、そのため形態は多様であり、細菌濾過膜を通過する。従って発見当初は濾過性病原体と呼ばれた。しかし、ウイルスとは異なることから、その後PPLO(ウシ肺疫様微生物)という名称も使われた。自然界に広く存在し、ヒト、動物、植物に寄生する。ヒトから分離されるマイコプラズマは現在、マイコプラズマ属やウレアプラズマ属など16種類が報告されているが、病原性が確認されているのは原発性異型肺炎(マイコプラズマ肺炎)の原因となるマイコプラズマ・ニューモニアエである。マイコプラズマ・ゲニタリウムは男性尿道炎や女性頸管炎との関連が示唆されている。
(医学書院 医学大辞典 一部省略)

 マイコプラズマ・ニューモニエ(肺炎マイコプラズマ)は、子どもの呼吸器感染症の重要な原因のひとつです。1歳までに3割以上、5歳までに5割以上、成人までにほぼ100%の人が感染します。"肺炎"とついていますがすべての感染者に肺炎を認めるわけではなく、最大で100人中10人程度、学童期に多く、他の年齢ではさらに肺炎の頻度は低下します。潜伏期間は2から3週間で、発熱、頭痛、のどの痛み、倦怠感、咳などが出現します。ウイルス性感冒とは異なり鼻汁はあまり目立たないのが特徴ですが、低年齢では認めることもあります。咳は発熱から数日後に始まり、時に1ヶ月程度続くこともあります。発熱ははっきりしないこともあります。マイコプラズマ・ニューモニエによる肺炎の多くは重症度が軽く、walking pneumonia(歩き回れる肺炎)とも呼ばれます。症状が軽ければ通院での治療も可能です。

 マイコプラズマ・ニューモニエそのものの細胞障害性は低く、症状の多くは宿主の免疫応答の結果だと考えられています。そのため、咳といった呼吸器症状に加え、宿主の免疫応答の関与が考えられる様々な合併症をおこすことがあります。マイコプラズマ・ニューモニエそのものによる障害としては中耳炎の合併が多く、宿主の免疫応答による間接障害としては、発疹、蕁麻疹、脳炎、小脳失調、ギラン・バレー症候群、オプソクローヌス・ミオクローヌス症候群(眼球の不規則な運動、筋肉の不随意の収縮、ふらつきといった小脳失調を伴う)などの神経症状、血小板減少性紫斑病、血球貪食症候群、川崎病のようなサイトカインの誘導による症状、伝染性単核球症、また、腎炎の合併も知られています。近年では過剰なサイトカイン産生のために適切な抗菌薬の投与によっても解熱しない症例に対してステロイド治療が行われるようになり、効果があることが報告されています。

 マイコプラズマ・ニューモニエ感染症は軽症では抗菌薬は不要ですが、咳がひどい、あるいは咳が長引いているお子さん、肺炎を認めるお子さんなどには抗菌薬が必要です。従来はマクロライド系抗菌薬(ジョサイマイシロップ®、クラリス®、ジスロマック®など)で充分な効果がありましたが、耐性菌の増加から抗菌薬の変更が必要となるケースがあります。抗生剤に対する耐性率は、地域の抗生剤の使用状況や季節によって変動します。近年ではピークにくらべて全体的な耐性率は減少していると言われており、耐性菌にも有効な抗菌薬(オゼックス®など)の適切な使用が広まってきた結果ではないかと考えられています。肺炎マイコプラズマにワクチンはなく、手洗い、うがいなど一般的な感染対策を行います。

 他に、マイコプラズマ・ゲニタリウムや、マイコプラズマ・ファーメンタンスが非淋菌性尿道炎などの原因になると考えられていますが、小児で問題となることはふつうありません。

 まとめ:肺炎マイコプラズマは子どもの主な風邪の原因のひとつで、時に肺炎になることがある。

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